前書き この雑文は、自作黒歴史であるMLの設定の一部を語るべく、思いつきで作ってしまった シナリオに関連するあるキャラの視点を中心とした物語です。 確認事項(大体今決めた) ステミア王国…ディアス君の出身国。歴史と秩序がウリの、大陸有数の国。 リーフィア王国…ニーナさんの出身国。昔は小国の一つだったが開拓精神をウリに国土を広げ続ける。 騎士団…ステミア王国の王立騎士団。ディアス君やらウィレム君やら。ステミア王国の特権階級層を構築する。 言葉は、出なかった。 口に出すべき言葉が、思い当たらなかった。 にわかに、周囲がざわついてきた。やや遠巻きに、リーフィアのものと見える兜がいくつか。こちらを見ている。 アレックスは気付く。青年の先ほどの指笛で、部隊が集結してきたのだ。 戦に意識を戻す。今、剣は手元にない。囲まれたら、一貫の終わりだ。 しかし、ここで青年が兵士達を制した。気丈に立ち上がると、兵士達に歩み寄る。 こちらを振り返ると、二言三言、こちらに声をかけてくる。何を言っているのかは、相変わらず分からない。 そしておもむろに剣を取り出し、2つに叩き折る。そして柄の方を、こちらに投げよこした。 停戦、という事らしい。アレックスは頷く。 青年の方も満足げに頷いて、きびすを返し、今度は仲間に声をかけた。「撤収」という意味の声が、はっきり聞き取れた。 魔物の消えた所に行く。自らの剣が転がっていた。 ダゴスを簡単に埋葬し、来た道を戻る。 魔物には打ち勝ったが、心は晴れない。不可解が、胸に渦巻いている。 そうだ、魔物だ。 なぜ、リーフィアの部隊は魔物がいるこの界隈に伏せる事が出来たんだ? あの道の魔物達は、どうして崖上の彼らに「襲い掛かることなく」徘徊していたんだ? そして、なぜ先ほどの魔物は、青年ではなく私を襲ったんだ? これまでの違和感が、明確な「疑問」として頭に押し寄せる。 アレックスは一度これを振り払う。やや時が移ってしまった。部隊はもう砦を前にしているだろう。 早く先へ進み、作戦を遂行せねば。疑問の解決は、それからでいい。 しかしながら、アレックスの未来は、作戦を遂行する事も、疑問を解決することも、アレックスに許さなかった。 「一体何してんだよ、隊長は!?」 傭兵の一人が、声を荒げる。 「指揮官がいなくば、任務は遂行できない。まだ忍耐すべきだ」 年上の騎士が、やけに落ち着いた声で述べる。 焦れていた。 突然の奇襲に見舞われたものの、兵の被害はごく少なく、すぐ先へ行けば眼下に見える あの砦を落とすには十分な与力を残している。 しかしそれも、指揮官がいれば、の話である。 アレックスが帰ってこない。また、これまで傭兵のまとめ役を務めていたダゴスの不在も確認された。 「何も、今すぐ兵を進める必要はないのだ。従軍の経験の少ない若い騎士達は、このままでは  不安を抱えての戦闘になる!一度戻って、アレックス様の安否だけでも調べよう!」 先ほどの年上の騎士の言葉は、半ばにやけながら言っている様に、ディアスには聞こえた。 いや、きっとにやけているのだ。従軍経験が少ないのは若い騎士だけではない。 かの騎士も長年支配階級として暮らし、平時ならば戦場に駆り出される事もなかった手合いだ。 彼にとって見れば、戦場というリスクは避けるに越した事はない代物だ。 ディアスは目の前を見上げる。自分と同年代の若い騎士や、戦力と呼ぶに覚束ない従騎士達、四、五名。 戦場を前に、多くは震えている。先ほどの騎士の言った事は、あながち間違いではないのだ。 しかし、ディアスは焦れていた。 「このまま兵を戻しても、咎めは受けぬ。私、トーマス=マクレス=リーバートンが保証しよう!」 かの騎士の演説に、傭兵達がたじろぐ。その時、ディアスが立ち上がり、近付く。 「何だね、ディアス君。突然――」 ディアスは傭兵達の方に向き直り、宣言する。 「我々、ウィルストン隊は、これより直下の砦を制圧するため、進軍する!!」 全員が言葉を失う。傭兵達も、目を丸くしている。 「な、何を!?ディアス君、指揮官不在では、罪に――」 「罪に問われるとしたら、それはこの戦の口火を切らない事です、リーバートン卿」 ディアスはリーバートン卿を一瞥し、もう一度向き直る。 「騎士とは、国の人々を守るために任じられた者だ。目の前に、敵に簒奪された砦と、  パベイラに住む数万の国民がいる!なれば、その任に応えねばならない!」 周囲が、しんと静まり返る。リーバートン卿も、傭兵も、騎士達も、こちらを見ている。 「そして勿論、この戦場で貴様ら傭兵達が手柄を立てたならば、褒章も約束しよう!」 「やるぞ!」傭兵の一人が声を上げた。それに続けて、傭兵達も騒ぎ始める。 「やってやろうじゃねえか!」 「おうよ!ここで戻るなんて男じゃねえ!」 「やるじゃねえか、若ぇの!!」 もはや、後戻りは出来ない。しかし、アレックス様ならこう言うはずだ。決意は揺るがなかった。 アレックス様は戻ってくる。このような場所で死ぬ人ではない。 ならば自分に何が出来るか?アレックス様の考える道を、続かせる事だ。 アレックス様の道に障害が多いのならば、今ひと時だけでも、自分がアレックス様の代役となって、 この道を、切り拓く――。 ディアスは、剣を抜き、この道の先へと向けた。軍は歓声を上げた。 まずは、この下の砦を攻め落とし、その上で「鷹の騎士」ワグナー様の部隊を待つ。 そこから先は、アレックス様の仕事だ。 ありえない事が起こっている。坂を駆け下りたアレックスが見たのは。そういう光景だった。 敵の攻め寄せた坂の先、崖の縁に佇んでいたのは、「鷹の騎士」ワグナーの姿だった。 若い頃の勲功を感じさせるその無骨な手には、巨大な塊をぶら下げている。 それは、アレックスをこの地まで運んできた愛馬の成れの果てであった。 「ワグナー…様?」 「…アレックス。一人でリーフィアの部隊を片付けてしまったのかい?  流石の武勇だ。鼻が高いよ」 あの敵襲は、私の差し金だ。そう言っているかのようだ。 「部隊の面々は、先に行ってしまったのかな?簡単じゃないな…  まぁ君がいないのなら、すごすごと帰ってくるのだろうね」 頭が働かない。何を言っているんだ? 「こちらに来てみて正解だったよ。やはり手ごわい相手だったようだ」 「…あなたがここにいるという事は、本隊は?」 間の抜けた質問が口をついた。 「本隊?あぁ、安心したまえ。今、この地位を捨てるような真似はしない。  側近達に任せて指示通りに進ませているよ」 答えの意味が、理解できない。兵を率いながら辿りつける場所ではないのだ。 「…飲み込めてないようだな。いささか不本意だが」 ワグナーの姿をしたそれは、馬の首を離し。こちらに剣を向けた。 反射的にアレックスも構える。 無我夢中だった。ひたすらに相手の剣を受け止めるのが精一杯だった。 そして確信した。この目の前にいる相手は、かつて剣を交わしたワグナー様本人だと。 攻撃を凌ぐうちに、気がつけば、アレックスは崖を背にして立っていた。 「ハハハ、無様だな!アレックス」 剣を降ろしてワグナーが言う。 「…何故だ!ワグナー様」 正体に気付いた今、アレックスは目の前にいる敵に怒りを覚え始めていた。 「敵とわかってなお、身分差を越えられない…愚かしいものだな。  騎士道という奴か…人間の子供の言う事と嗤いながら見ておったが、もう少し早めに  潰しておくべきだったかな」 聞きながら、アレックスは脱出の術を考える。 「全てはお前の気まぐれ…だったという事か?」 「今回の戦は好機だったよ。戦場なら誰が死んでも大事にならない。  そしてこの戦で、人々は苦しみ、心は荒み、我々の住処が増える。最高だ」 ワグナーが隙を見せる。もうこれ以上、こいつの演説を聞いている余裕もなかった。 思い切り左上に振りかぶり、叩き下ろす。 「やはり、愚かだ」 そう聞こえた瞬間。目の前が真っ赤になる。 熱い。 振り上げた手を、それでも下ろす。しかし当たらない。 一瞬のうちにあいつとの距離が膨れ上がって、今もまだ遠ざかっている。 足先が、崖の先端に触れたのを感じた。 落ちる。と感じるよりも先に、悔しい、と感じた。 悔しい。 もはや体重を支えるものはなく、目には空しか見えなかった。 胸のあたりが熱い。悔しい。ステミアでは禁忌である「魔法」という技術を思い出す。 悔しい。 悔しい。 何度となく、崖に体を打ち付けられながら、目には親しい人々の顔を思い出していた。 父上、母上、杯を酌み交わした友人、 ウィルストン城の召使達、 妻マーガレット、 そして息子、マルコの笑顔―― 背中が、冷たい。 それが、アレックスが感じた、最後の記憶だった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 「よう、ディアスが女と一緒にいないのは珍しいな」 騎士団書庫にて壁にもたれながら本を読んでいたディアスは、声をかけられて思わず 本を胸に倒して中身を隠す。 「うるさいぞボビー。相手がいないからって男に声かけちゃお仕舞いだな」 「ははは、声かけられたくないなら今度コツを教えてくれよ。じゃあな」 再び読書に戻る。手に取ったのは、あの戦役の行軍日誌だった。 結局、あの日以来、アレックス様は戻ってこなかった。 砦を落として以降、ディアスを中心に奮戦する事になったウィルストン隊は、 半年後、ディアスの主力軍団への編入という形で解消されたが、それまで 各地にて大いに功績を上げた。 勿論武名を轟かせる事になったディアスだが、彼の心は未だ闇に深く沈んでいた。 戦の終わった3年前以来、騒がしい日々の合間を縫って、 ディアスはこの日誌を読みに来る。 多くを語る事なく消えてしまったアレックス様。 彼が帰る日に備えて、自分では一生懸命、彼の代役を務めて来たつもりだ。 それでも時折、どうしていいか分からなくなる。そんな時、この日誌を読みたくなるのだ。 「よし」 ディアスは日誌を戻す。最後まで読み終えてはいない。 どうしても、アレックスが消えたあの日より数日前からの記録は、読む気にならない。 一度開いて、数文読んだ時に、言い知れない不快感が広がり、 アレックスに「まだ早い」といわれている気がした。 とりあえずは、鍛錬場に行ってボビーの奴に嘘でも仕込んでくるか… ディアスの興味は、そんな所に移っていた。     ――真面目なあいつには、きっと私の代わりなんて出来ない。しかし、 あいつが自分の力を真に発揮すれば、きっと私よりもずっと先の所に到達できる だろう。おそらくは、国に巣食う影をも消し去るほどに――