前書き この雑文は、自作黒歴史であるMLの設定の一部を語るべく、思いつきで作ってしまった シナリオに関連するあるキャラの視点を中心とした物語です。 確認事項(大体今決めた) ステミア王国…ディアス君の出身国。歴史と秩序がウリの、大陸有数の国。 リーフィア王国…ニーナさんの出身国。昔は小国の一つだったが開拓精神をウリに国土を広げ続ける。 騎士団…ステミア王国の王立騎士団。ディアス君やらウィレム君やら。ステミア王国の特権階級層を構築する。 大陸西方でも有数の都市として名高いパベイラは、その戦略的重要性に反して、防衛拠点としての側面の弱さを感じさせた。 仕方ないのであろう。西方は元来、ムラの集まり程度の小国が乱立していた地域であり、そこに経済拠点としてステミアの手が 入り作られたのが、都市としてのパベイラだ。 小国からの防護以上の役割は想定されておらず、ましてステミア側からの攻撃に耐えるものでもなかったのだ。 パベイラの入り口たる東の関門は、頑なに閉ざされてはいるものの、しかし今ディアスのいる 山の上には、無防備な姿をさらし続けていた。 偵察だけはしておいた方がいい、との事で、見えない位置に部隊を休ませて数名(騎士3名、傭兵1名)で見下ろした関所。 こちらが万事無事なら、すぐにでも攻め下ろした方がいい。それがディアスの結論だった。 しかし、隊長たるアレックス卿が、戻ってこない。 後列にいた傭兵達(よく見れば、数日前酔いどれて暴言を吐いたあの傭兵だ)の話を聞く限り、彼は敵の下りてきた坂を 逆に上り、敵を引き付けていたらしい。 何にせよ、指揮官の不在に軽々しく兵を動かす事はできない。 そして、何よりディアスは言い知れない不安を、胸の中に抱きつつあった。 剣と剣が合わさったのは、ほんの3合ほどに過ぎなかった。 力の差は、彼我の距離に如実に現れていた。 『……降参するがいい。これ以上いたずらに時は重ねたくない』 強き者、アレックスが、相手の言葉で話しかける。 『…誰がっ!!』 弱き者、リーフィアの小隊長の青年が、牙を剥く。 しかし、その威勢とは裏腹に、青年の足は動かない。 先ほど攻撃をはじかれた際に、恐怖を覚えているのだ。 しかし、青年は逃げない。小隊長の使命感からだろうか。それとも何かしらの意地が─── ピィィィィィィッ 青年が指笛を鳴らす。なるほど。ここは相手の陣に近い。囲まれたなら、多勢に無勢だ。 本当は1人でかたを付けたかったのだろう。青年は、ある種悔しそうな笑みを浮かべている。 切り払われて広場上になった山坂。改めて両者共に剣を構える。 囲まれる前に―――こいつの首を切って、勝利を確定させる。 坂の下から矢が飛んできた。 狙われたのは、青年の側だった。のけぞって回避する。 「旦那ぁ!!!」 「!!ダゴス!なぜこっちに――」 「旦那がまかり間違って死んだりしちゃあ困るんでさぁっ!」 坂を駆け上がりながらダゴスが言う。 「馬鹿野郎どもはあらかた前に進ませました。ここはあっしに任せて、旦那は前に戻ってやってくだせぇ!!」 話している最中に、青年が襲い掛かる。素早くはじき返すと、奇しくも上ってきたダゴスのいる場所の ほど近くに転がっていった。すぐさま後ろを警戒してダゴスに剣を向ける。 ダゴスの言う事ももっともだ。ここは離脱して、前線に。 来た方に向き直る。青年の、悔しそうな甲高い声が聞こえる。ダゴスとの戦闘が始まったのだ。 無視しても良かったのだが、何の気なしに振り向くと── 彼らが戦う、その坂の上から、怖ろしい気配がする。 「気配」は瞬く間に坂を駆け下りて― 聞き慣れた声の、決して聞き慣れない悲鳴が聞こえた。 アレックスは、再びきびすを返していた。 青年は腰を抜かして、呆然としている。ダゴスの姿は見えない。影も、形も。 その代わり、奇妙な後姿が見える。そいつは、二本足を折り曲げて器用な姿で、坂の上に立っている。 足に直に支えられた上体が、ゆっくりと後ろを振り返る。 毛むくじゃらの後姿から、赤く輝く目と、あまりに巨大な口が現れ始める。 魔物。2足しか持たぬ貪欲な狼、ウルフィードだ。 魔物が完全にこちらを向いたとき、その口にダゴスの上半身が絡まっているのが見えた。 明確に、命を失っている。そう考えざるを得なかった。 その飢えた獣は、そして明らかに次の獲物を探していた。 『ひっ』 青年がおびえる。 アレックスから青年まではまだある程度距離がある。間に合うか?いや、間に合わせなければならない。 鎧も重く感じられる程度に多少の疲労はしてはいたが、アレックスは走り出していた。 奇妙かもしれない。今助けようとしている相手は、まさに敵国の憎むべき敵である。 しかし、彼は今間違いなく、護りを欲する弱者なのだ。 そして、そういう人々を助ける事が、アレックスの騎士道なのだ。 口の異物を吐き捨てた魔物が腕をしならせ、飛び上がる。           ・・・・・ 魔物は、真っ直ぐに、アレックスに襲い掛かってきた。 意表を付かれた。さながら青年を飛び越えるような形で、アレックスに、襲い掛かってきたのだ。 アレックスが何とかできたのは、構えた剣をウルフィードの口にかませる事くらいだった。 魔物と、自分。両方が武器を失った状態。しかし、ウルフィードはいまやアレックスに馬乗りになり、 その腕はアレックスの腕を地面に押し付け、その口は剣を力任せに噛み砕こうと四苦八苦している。 その剣が取り除かれた時、それはアレックスの最期に他ならなかった。 魔物の血で汚れた口の奥に、ダゴスの体の一部が見える。 それは、これから起きる死をアレックスに覚悟させるに、十分だった。 魔物は力任せに、剣をその歯茎の中に押し込んだ。さながら痛みなど感じていないかのようである。 下あごがアレックスの顔を掠める。次こいつが口を開いたら、逃れる手はない。 と。 魔物が絶叫を始めた。今の今までこちらを見据えていた目は、苦しみからもはや何も見えてはいなかった。 状況が変わった。しかし、勿論剣を食らった事が原因ではあるまい。 うろたえながら状況を確認する。魔物の背後に、血を浴びる人影があった。 かの、青年小隊長だった。                ・・・・・・・・・・ 魔物がぶんぶんと頭を振り回す。想像もしていなかった奇襲に、我を忘れているようだ。 アレックスは何とか拘束を脱し、その頭の動きに合わせて、腕甲で一撃を見舞った。 物理法則には勝てない魔物のようだ。のけぞって、頭から林に突っ込む。そしてその瞬間、 青年がその眼球に剣を突き立てた。 ぐうアアアァァァァァ……… 大きな悲鳴と共に、魔物は急速に縮みはじめる。後に残ったのは、ダゴスの衣服と遺体の一部だけだった。 .