前書き この雑文は、自作黒歴史であるMLの設定の一部を語るべく、思いつきで作ってしまった シナリオに関連するあるキャラの視点を中心とした物語です。 確認事項(大体今決めた) ステミア王国…ディアス君の出身国。歴史と秩序がウリの、大陸有数の国。 リーフィア王国…ニーナさんの出身国。昔は小国の一つだったが開拓精神をウリに国土を広げ続ける。 騎士団…ステミア王国の王立騎士団。ディアス君やらウィレム君やら。ステミア王国の特権階級層を構築する。 バスッ  バスッ 刈り取った木の枝が落ちる乾いた音が、そこら中からしてくる。 アレックス達の小隊が向かう先は、海岸際の、身を隠しながら進軍するには最適な小径である。 街道から距離のあるその道は当然、人の手による管理と、人の足による蹂躙の不足から、 その入り口を自然の住処として明け渡してしまっていた。 バスッ  バスッ しかしながら、その進軍速度は、その環境に比して上々であった。 多様な出身地を持つ傭兵達の中から、山林に慣れているものを選抜し、彼らを前衛として 藪を切り開かせているのだ。 結果、彼ら小隊は確実に目的地への距離を詰めつつあった。               バサササッ 「来たぞ!!!」 前衛の部隊から声が上がる。馬上にて見守っていたアレックスも、身構える。 茂みの中から飛び出してきたのは、トビムカデ。油断していたらその大きな顎で頭を持っていかれる、 大型の魔物だ。 アレックスが馬を下りようとした刹那、 「チェィッ!!」 前衛のすぐ後ろに控えていた一団がトビムカデに襲い掛かる。顎の付け根に剣を突き刺し、 敵の最大の武器を無力化すると、別の一人が羽を切りつけて、飛行力を奪う。 哀れトビムカデはひっくり返り、その身を、魔物狩りの傭兵達にされるがままになってしまった。 「…やってくれるじゃないか、みんな」 騎乗しなおしながら、アレックスは言った。ふと、ディアスと目が合う。 その一言に反応してか、やや不機嫌そうな顔を馬上で浮かべる。 「…あんな事。我々にだって出来ます」 そう言いながら、おもむろに剣を取り出したディアスは、その剣を脇道に生えている木に突き立てた。 木の形をしていたそれは、一瞬だけその魔物としての本性を浮かべた後、力なく崩れ落ちた。 王都を発って9日、「鷹の騎士」ワグナー率いる本隊と別れて5日。 海岸際の小径を抜ければ、もはやパベイラまで行く手を遮る障壁はなく、 敵軍主力が本隊に目を向けている間に、パベイラの奇襲を済ませてしまうことが出来るだろう。 アレックスは、この作戦を許してくれたワグナー卿の事を思い出す。 「戦争も民と共に…なるほど、貴公らしい」 静かな執務室に響き渡ったその声は、この日まで、この戦での彼の心の支えであり続けている。 小径 というには広さに余りある細長い平原が、そこにはあった。 右手には切り立った崖が迫り、左手には同じように鋭い崖から海を臨むその地勢は、 古くから人々の営みから外れた地域らしかった。 そして、それゆえに、大型の魔獣の姿も見受けられる。 この平原をまっすぐに突っ切れば、やがて港町パベイラの警備の脇を突くことになる。 占領から間もなく、体勢の定まらないと聞く彼の地を落とすのは、造作もない。 この道で先導役を務めるのは、馬に乗った騎士達がふさわしい。 「ハッ」と一つ鞭を打ち、アレックスを中心とした5人だけの騎士部隊が前線に入れ替わる。 小さい魔物は踏み散らし、視界に見えた一番大きな魔物には、アレックスが自ら攻め寄せる。 魔物が体を起こす。見上げるほどに大きい。ランスを取り出す。 馬に鞭を入れ、跳ね上がる。 状況を見定めようと見渡す敵。 その腹に。ランスを。 捻じ込む。 「うおおおおおおおっ!!!」 喚声が起こる。槍を引き抜くと、アレックスは草原の先に槍を向ける。それを号令に、 荒くれもの達が我先にと前進を開始した。 風を感じ、走る。 このうねりは、間違いなくパベイラに近付きつつある。 海に偵察が出ていないとも限らない。 歩兵である傭兵達を引き連れつつ、なるべく、急ぎながら。 ふと 崖の上から、小石が落ちるのを見て取る。 通り過ぎかけて、気になって上を見る。 「どうかしましたか?」ディアスの声が聞こえる。 「先に行っててくれ」 ディアスは不安そうな顔を浮かべた。従騎士の頃に戻ったような顔だ。 しかし、アレックスの顔をしばらく見て、再び轡を前に向ける。 兵の半ばがその崖を渡り終えた頃合だ。その時がやってくる。 上に微かに見たものは、この国の者ではない兜を纏った影。 リーフィア軍の、伏兵だ。 .