前書き この雑文は、自作黒歴史であるMLの設定の一部を語るべく、思いつきで作ってしまった シナリオに関連するあるキャラの視点を中心とした物語です。 確認事項(大体今決めた) ステミア王国…ディアス君の出身国。歴史と秩序がウリの、大陸有数の国。 リーフィア王国…ニーナさんの出身国。昔は小国の一つだったが開拓精神をウリに国土を広げ続ける。 騎士団…ステミア王国の王立騎士団。ディアス君やらウィレム君やら。ステミア王国の特権階級層を構築する。 アレックスがその時思い返していたのは、野営地よりはるか東、先祖代々の居城たるウィルストン城、 その中庭で戯れる妻と子の姿だった。 彼がこの戦に赴くために家を空けたのは、たったの7日前である。感傷とは無縁の人間だと自分では 思っていたが、なかなかどうして、こうして舞台に立たないと分からない事というのは、 結構あるものだ。アレックスは苦笑いを浮かべた。 大戦。 彼が往くその場は、紛れもなく、そう呼べる場所であった。 今やステミアと並ぶ国力を持つまでになった北の大国、リーフィアが、国境を侵して南下を開始して1ヶ月。 その勢いは凄まじく、既に「ステミアの西の都」と謳われたパベイラも、 彼の国の占領下に置かれているらしい。彼の任務は、そのパベイラの急襲である。 「アレックス様」 丁寧ながら、仄かに怒気を含んだ声の主がカーテンをあける。 かがり火の灯りに照らされたその顔はまだ幼さを残しており、とび色の目が、しっかりと 先ほど名を呼んだ自分の主人を見据えていた。 「お役目ご苦労、騎士殿」 茶化して言う。彼――ディアス=ウォーレス──は、アレックスの手によって叙任を受けたばかりの 新米騎士なのだ。 「して、兵士たちは無事寝付いたかな?」 陣幕の外からは、まだまだ騒がしい宴会の音が聞こえてきている。 この戦が今までのものと勝手が違う事を悟ったアレックスは、早い段階でその部隊編成を 上司にして軍務の長たる「鷹の騎士」ワグナーに進言してきた。そして彼自身は、傭兵を中心とした 少数精鋭の先遣部隊を統べる事となったのである。 アレックスは思っていた。 この国の騎士だけでは、この国難は退けえない。 怠惰と政争に溺れたこの国の騎士達の目を醒ますため、民の力こそが必要だ。 彼が、傭兵部隊を指揮することを望んだのは、そんな経緯があっての事である。 「差し出がましい事を申す様ですが、アレックス様」 苛立ちを隠せない顔を浮かべながら、ディアスが言う。 「あなたの様な立派な方が、今後、あのような者たちとの行軍をなさる事は、すべきではありません」 アレックスは、彼の苛立ちの理由を知っている。何しろ、出立して以来、毎夜この騒ぎなのだ。 漂う酒気、下品な言葉遣い、そして乱闘。 育ちの良い彼のような騎士にとってみれば、この行軍は地獄の様なものであろう。 「彼らが嫌いかい?」 「最低限の教育のない人間が、軍の規律を守れるはずがないと言っているのです」 言葉の端々から、彼の今夜の出来事がどうであったのか、容易に想像できて微笑ましい。 ディアスは、間違いなく彼ら傭兵が嫌いだ。王命を受けずして戦場に立つ彼らを、大抵の騎士は そのようにして嫌っている。 しかしそれでも彼は、この役目を果たそうと、毎日傭兵たちと顔を付き合わせては、傭兵たちに からかわれているのだ。 アレックスは、彼のその生真面目さを好いていたし、見込んでいた。 「う゛おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおい!!?」 突然、けたたましい声がカーテンに割って入る。外の宴会の一人が、流れ着いて来たようである。 (ディアスが顔を歪めているのが、目の端に映る) 「おやぁ?大将じゃねーか。何してんだよこんなとこで……  それよりさぁ、聞いてくれよ大将よォ!」 いがぐりに頭を丸めた若い傭兵が、顔を真っ赤にして、ろれつの回らない舌を動かす。 「このガキんちょがよぉ、『今日のお前の酒は、こんだけだ』って言ってきかねぇんだよ!  分かってるぅ?俺達ゃせんそうにいくんだぜぇ?こんなおうぼう許せないだぉぉ」 そう言ってそいつはムリヤリにアレックスと肩を組んでくる。 『ガキんちょ』騎士は、その光景に非難がましい目を向けている。それはこの酔っ払いに向けた ものの様でもあり、アレックスに向けられている様でもあった。 「何れぇ!国も守れない騎士様がえらぶりやがってぇ!」 「まぁまぁ、今日の所は休もうぜ?肩組んでくれて好都合、ダゴスの所に行こうかぁ」 「おぁ、大将!気が利くねぇ。騎士様っつっても、大将は別だぁ」 宴会の輪も消えかけの中、ダゴスという老傭兵に若者を預ける。ダゴスは王都中の傭兵に顔が利き、 酒を飲みすぎない節度と純朴な人柄で、アレックスからの信頼も厚い。 「すんませんな、大将。明日にでもこっぴどく叱っときますんで」 ダゴスのしわがれた声が響く。そして騎士が来た事もあってか、何人か残っていた傭兵達も 兵舎に戻っていった。 「さて、我々も寝るか」 「明日はもっと早く寝られればいいのですが……」 ディアスが皮肉を言う。 行軍日誌をしたためている時に、ふとまた家族の事が頭をよぎった。 この行軍速度ならば、あと3日でパベイラだ。 この戦が終われば、パベイラの戦後や部下の処遇も含め、色々と忙しくなるだろう。 うまく隙を見て、ウィルストンにも帰らなければ、な。 ペンを置き、アレックスも眠りに就く。鳥の鳴き声が、やたらに響いていた。 .