注意書き ブラックアポカリプスの書き散らし。例の如く支援追ってないと意味不明。  駐屯地のナナセのテントの前に二人の人影が見える。既に日はとっぷりと暮れていた。 「ナナセ様、ナナセ様っ!」  一人は真朱解放隊時代に途中加入したノーマ。ピンク色の髪を二つに結んだ活発な魔道士の少女である。 「ノーマ、ナナセさんは忙しいんだからそんないきなり……」  そして、もう一人は少年剣士のリュシアン。彼もまたノーマと同じく真朱解放隊時代に途中加入した人物である。  幼馴染である二人だったが、今にもナナセのテントに突入しそうなノーマとそれを必死で止めるリュシアンと言う対照的な二人の姿。  この二人においては当たり前すぎる日常であった。 「ちょっとー!そんなに引っ張らないでよお!」 「何時だと思ってるんだ、あんまり大声を……ってうわあっ!?」  どっしーん。  勢い余って二人はナナセのテントの前で派手にすっころんでしまった。 「もーっ、痛いじゃない!」 「俺だって痛いよ、早く降りてくれないか」  いつものように二人が言い争っていると、テントの入り口からナナセが顔を出した。  その顔にはありありと疲れが見てとれる。随分と寝ていないようだ。 「ノーマ、リュシアン……?どうしたの……?」  二人の顔を見ているようで全然焦点が合っていないように見えるナナセは、覇気の無い声で尋ねる。 「あの、ナナセ様を慰めに来ました!お悩みならお話だけでも聞きますよ」 「慰め?僕、そんなに元気がないように見えるのかな?」 「元気がないって言うか、一度軍医に診てもらった方がいいんじゃ……」  ナナセのただならぬ状態を見て思わずリュシアンも思わず本音を漏らす。 「二人とも心配してくれて有難う。でも大丈夫だから」 「そうは見えません!あたしもリュシアンもナナセ様が心配で心配で!気分の落ち着くお茶でも淹れますよ!」  ノーマを止めに来たつもりのリュシアンも勝手に巻き込まれていた。 「ナナセ様がいいって言うまで帰りませんから!」  そう言ってその場から動こうとしないノーマ。余計にナナセの気苦労を増やしそうである。 「え…えーと……」 「おいやめろ、ナナセさん困ってるじゃないか」  リュシアンが制止しようとするが、それをナナセが止めた。 「いや、大丈夫。ちょっと待って、片付けるから」  一旦テントの中に引っ込んだナナセを見てノーマが目を輝かせる。 「ナナセ様、あたしの愛を受け取ってくれたのね!リュシアンも一緒って言うのがちょっと気に入らないけど我慢だわ」 「いやいやいや……」  戦況はとても平和とは言える状況ではないのだが、この二人は平和である。  ナナセがテント内に戻ると中空に声を掛ける。 「ソーマ。お客さんが来たんだけど君はどうする?」 「お客さん、ですか?それでは私は信仰を集めてまいります」  ナナセの視線の先に浮いていた黒い青年はばさり、とマントを翻した。 「う、うん…そうだね……わかった。行ってきていいよ」 「では、行って参ります。明朝には戻ります」  ソーマは淡々と答えるとテントの入口を開け、二人の少年少女を突き抜けて夜の空へと舞い上がった。 「お待たせ。どうぞ」  ノーマとリュシアンはテントの中心に立っていたナナセと目が合った後、互いに顔を見合わせる。 「今、入口が勝手に……」  ソーマが自分たちをすり抜けて出て行った事に気がつかない二人は目の前で起きた怪奇現象に震え上がる。 「気にしないで。椅子が無いから寝台に座るといいよ」  しかし、ナナセにここまでさせておいて今更帰る訳にもいかない。ナナセの言葉を信じ、言われるがままに並んで寝台に座る。 「えっと、お茶出すから待ってて」  ノーマは自分でお茶を入れると言ったにもかかわらず、呆けたようにナナセを見ていたが数秒後にハッとして立ち上がる。 「ナナセ様、あたしが淹れますから座ってて下さい!今日はあたし達がナナセ様を慰めに来たんですから!」 「達って……」  既にもうリュシアンはナナセ慰め隊のメンバーとしてみなされているらしい。  ナナセからポットを奪ったノーマは自分で用意した茶葉を取りだす。 「ナナセ様は座って下さい。リラックスですよー」 「う、うん……」  半ば強引にリュシアンの隣に座らされたナナセは、鼻歌を歌いながらお茶を入れるノーマの後ろ姿をぼーっと見つめる。 「ナナセさん、ノーマが余計なことしてすいません。一応止めたんですけどね」  ノーマの目を盗んでリュシアンがナナセに耳打ちする。やっぱり巻き込まれただけか、と言う目をしてナナセは答えた。 「ああ、大丈夫だよ。それに関しては気にしてない」 「ですけど……」 「ただ、こうやって皆に迷惑かけてるのに何も変わらない事が申し訳なくてね」  ナナセは自嘲するように笑うと、自分の足元に視線を向ける。 「こっちもそれに関しては気にしてないですよ。ナナセさんは俺達の恩人ですから」 「有難う。でも、この軍の殆どの人は僕にいい感情を持っていない。ペリシア様がいなかったら僕はどうなっていたか」 「そんな事気にしないで下さい。気にして体調崩してたら余計に……」  言い掛けた時、ティーカップを手に持ち仁王立ちしたノーマがリュシアンを見下ろす。 「ちょっとリュシアン、何コソコソナナセ様と話してるのよ!」 「ノーマ……」  ノーマはリュシアンとナナセの間に強引に体をねじ込む。 「ナナセ様、あたしの愛を込めたお茶ですよ、どうぞ飲んで下さい」 「あ、有難う」  ナナセは熱いお茶を受け取り、それを一口だけ口に含む。 「どうですか?」 「うん。美味しいよ。心配してくれて有難う。明日に響くし、もう戻った方がいいよ」  そっけないナナセの様子に、期待を裏切られたらしいノーマはナナセにしがみついた。 「駄目ですぅ、あたし達、ナナセ様を元気にしに来たんです!だから、ナナセ様が元気になるまで帰っちゃ駄目なんですう!」 「……じゃあ、…は……を…返して……かい?」 「えっ……」  聞き取れないくらい小さな声。暗い表情でつぶやくナナセの声を聞き返そうとしたノーマを、リュシアンは制止した。 「ノーマ、気は済んだろう?」 「え、あたし……」 「じゃあ、ナナセさん。明日に響きますからちゃんと寝て下さいね」  リュシアンはナナセがノーマに言った事と同じような事を言うと、ノーマを引き起こしてテントの外に出ようとする。 「ちょっとリュシアン!」 「いいから」  ノーマの抗議も封殺してリュシアンはナナセのテントを出た。最初からこれが出来ないリュシアンは、また、同じような貧乏くじを引き続けるのだろう。  テントの外に引きずり出されたノーマは膨れっ面でリュシアンを睨みつける。 「もうっ、どういうつもりなのよ!」  そんなノーマの様子にリュシアンは溜息をつきながら説明する。 「『じゃあ、君はホープを返してくれるのかい?』ナナセさんはそう言ったんだ。ホープさんとナナセさんが一緒に過ごした時間は、俺達がナナセさんと過ごした時間よりずっと長い。俺達が何か言っても、きっと、無駄だよ」 「でも、だからって……好きな人が苦しんでるのを黙って見てるなんて耐えられないよぉ」 「人の為にすぐに行動できる事はお前のいい所でも悪い所でもあるな。今のナナセさんには逆効果だよ」 「わかってる…けど……」 「きっと時間が解決してくれるさ。その時はたくさん話をしよう」  ノーマは本心では納得していない感じで頷く。  大した時間を過ごしていないつもりではあったが、既に空は明るみ始めていた。  リュシアンと別れた後、ノーマは一人で静かに泣いた。