注意書き ブラックアポカリプスのナナセとソーマのお話です。本人はBLのつもりはないです。 この話はifです。公式の流れとは異なります。でも支援を見ていないと意味が分からないと思います。 あと、愛の無いSSは糞だと思う人は読まないように。愛の無いSSだけどこれが書きたかったから仕方ないね。 ナナセは自分にとってはかなり特別なキャラだが愛しているかと聞かれると自分の愛の定義だと「YES」とは言えない。 そんなめんどくさいキャラ。でも彼の為に泣けるし、怒れるし、悩めるし、苦しめるし、幸せになれるのは確かな事実。  悪夢は所詮夢だ、って皆言うけれど。僕はそうは思わない。  毎日見ていたあの悪夢は見なくなったが、現実と言う名の悪夢は僕を決して逃しはしないだろう。  それでも、僕は行かなければいけないのだ。 「……はぁっ」  悴んだ手に白い息を吐きだし、羽織っていた厚手のマントの首元を締め直した。  それらの気休めを一瞬にして解かしつくすかのように叩きつける極寒の山に渦巻く吹雪。  容赦なく冷気を浴びせてくるそれは、まるで僕の心を折ろうとしているかのようだった。  だが、その吹雪も、山頂に行けばぽっかりと失われている筈だ。  そこに「彼」がいる事は、僕が一番よく分かっているのだから。 ********************  ここは、ペリシアの屋敷にある小さな庭園。ここにあるものは自由に薬に使ってもらって構わないとペリシアに言われたため、ナナセは薬の材料を求めてさまざまな植物で賑わう庭園をうろうろしていた。  ふと後ろを振り向くと、いつも自分の少し後ろについてきているソーマの姿が見えない。 「あれ?ソーマ?どこに行ったの?」  辺りを見回すと、ソーマはナナセから少し離れたところにある自分の背丈よりも少し高いくらいの木を見上げていた。 「何を見てるの?」 「あ、ナナセ……」  ナナセに声を掛けられソーマは振り向く。ソーマが見ていたのはピエリスの木だった。 「この花、綺麗な花ですね。何と言う花なのですか?」  可憐な白い花とは対照的に毒性の強い葉を持っているこの花に惹かれるソーマは、スリアに惹かれていた時と何も変わっていない。 「これは、ピエリス。毒があるから食べれないよ」 「た、食べませんよ」 「でも花言葉は犠牲、献身。ソーマにぴったりの花だね」 「え、そ、そんなことは」 「薬の材料にはならないけど、記念に貰っていくかい?」  ナナセがそう言うと、ソーマはナナセの顔とピエリスの花を交互に見た後、こくりと頷いた。  ナナセは手を伸ばして白い花のついた枝を切り取り、持ってきていた籠に放り込む。たまにはこういうのもいいだろう。  他にも色々な薬草を摘んで自室に戻る。  花瓶が無かったので調味料の入っていた瓶にピエリスの花を生けた。  ナナセが他の薬草に処理を施している間も、ソーマはピエリスの花を見つめていた。 「そんなにその花が気に入った?」 「え、ええ。そうですね。この花を見ていると不思議と懐かしい気持ちになります」 「じゃあソーマの誕生日も宝瓶月23日にしようか」  唐突なナナセの提案にソーマは首を傾げた。 「誕生花なんだ。その日のね」 「誕生…花……?」 「生まれた日を象徴する花の事だよ。神様って誕生日とか決まってないし、その日ってことにしたらどうかなって」 「私なんかに誕生日なんて」 「僕が祝いたいからそれで決定。次の宝瓶月23日が楽しみだね」  半ば強引なナナセの決定に、ソーマは苦笑する。  その誕生日が来ないなんて、その時は夢にも思っていなかった。 ********************  もうすぐ、ナナセは私の前に現れるだろう。自然の意思に言われるがままに、私を倒しに来るだろう。  不思議と悲しくはなかった。ナナセにとどめを刺されるのならば、それは幸福だと思えた。 「ソーマ、久し振りだね」 「ええ、お久し振りです」  会話をしている間にも私の周りにあった岩が音もなく消え去った。 「自然の意思に会った。君を殺せばこの世界は消えて無くならないって聞いた」 「そうですか」  ああ。やっぱり。  ナナセは抜き身の剣を私に向ける。  魔法を武器に戦うナナセには不釣り合いだと思いながら、その姿を酷く客観的に見ている私がそこにいた。  剣を持ったナナセの手は、カタカタと震えていた。 「どうしたのですか、ナナセ」 「……死ぬのが怖いんだ」 「死ぬのは私だけですよ。むしろナナセは私の力を得る事になります。今の私の途方もない力を」 「そんなのが欲しくて来たわけじゃない」  ナナセは剣を構え直す。 「君を助ける方法を探した。文字を覚えて色んな文献を漁って、どうにかならないか考えた」  そして、自嘲的に吐き捨てた。 「でも、どうにもならなかった」  それを聞いて私は心が苦しくなった。  もし、私が闇の神のままでいれば、ここまでナナセを苦しめ、思い悩ませることはなかっただろう。  ナナセに対してはとことん無力な自分が恨めしかった。 「だから僕も覚悟してきた」 「私を殺す覚悟ですか?」 「うん。でもそれだけじゃない。きっと僕がこれからやる事は凄く馬鹿な事だと思う。無駄な事だと思う」  ナナセの構えた剣がゆっくりと私に近付いてくる。 「ピエリスの花言葉って犠牲と献身だけじゃないんだよ」  ナナセが私の胸に剣を突き立てた直後、ナナセはそれを引き抜き、同じように自らを貫いた。 『いつも貴方と一緒』  最後にナナセが呟いたその言葉。ああ、本当にあの花は私にぴったりだったのだ。  それを知った時にはもう、涙を流す暇さえなかった。