窓の外に見える川の水は、とうとうと静かな表情を浮かべている。 この街の人々はこの川の水が、どこから来ているのかに思いをはせた事がない。 彼らにとってこの川は生活用水であり、生活排水であり、下流から富を流し込んでくれる 幸運の象徴でしかないのだ。 大陸の中央に位置するブルーム共和国は元来、行き交う人々によって栄える国である。 諍いの絶えない東西の両大国の緩衝国として交易を仲介してきたこの国の市場には、それぞれの文化を 象徴するような細工、特産物、武器や食品などが雑然と並び、それが人々をこの国へと引き付ける。 「人がある所には…か」仕事がある、という続きの言葉を飲み込んで、アルバートはため息をついた。 彼の人脈は幅広い。彼の変わっている所は、その人脈に頼りきろうとせず、自らの足で 新しい人脈を得ようとする所である。そんな訳で新しい人脈、要するに金づるを得るべく、この街に赴いたのだ。 当てはあった。 知人の商人の知人の商人、ここら一帯を取り仕切る豪商の護衛をする手筈だったのだが、 今まさに、彼が背を向け去っていく酒場で、無事ご破談になったところだ。 彼が人脈を求めるのが当然であるように、商人もまた、金を大事にする主義なのだ。 安値を吹っかけられたアルバートが、依頼状を叩き返したという次第である。 変なものを見つけた。 酒場から50メートルほど歩いただろうか。コンクリート(と呼ばれるものらしい。アルバートはそれをよく知らない) で塗り固められたひっそりとした路地に、コンクリートに負けないくらい灰色の布切れとその中身が落ちている。 うっすらと香の匂いがする。どうやら人のようだ。 「おい。」無意識に声をかける。返事はない。 つぶさに観察する。褐色の肌、貧相な体つき、灰色に見えた布切れはよく見ると薄いモスグリーンで、香の匂いは それに染み付いたものの様に感じた。 息はある。生きている。アルバートにとって、それは目の前の男を救うのに十分な動機だった。 「戻りたくはねぇが…」男をかつぐ。 「そうも言ってられねぇな」首を裏返し、酒場を見据えた。体も、それに続いた。 うわごとが聞こえる。 「…ごめんなさい…でも……」背に担いだ男に、アルバートは聞き耳を立てる。 「…僕は…神には…なり…ま…」 これが、アルバートと、後に彼が「ライト」と呼ぶ事になる青年との出会いだった。